ようやく仕事が一つの形になりました。
ブロック通信という業界紙の「今月の論説」に載せてもらいました。
「地震の時、愛する人を守るコンクリート塀を作りたい」がタイトルです。
「地震の時、愛する人を守るコンクリート塀を作りたい」
「大分県地震被害想定調査(平成20年3月) 第7編ブロック塀被害の想定」より引用。
「先の調査によると、建築基準法全ての項目が適合しているブロック塀はわずか2.8%であり、特に基礎の構造においては約8割の塀が法令に適合していないことが判明している。よって、大分県においては全てのブロック塀が倒壊の危険性があるとして扱うことにする。」
2018年6月18日7時58分。大阪の寿永小学校で9歳の少女が地震によるブロック塀倒壊で亡くなりました。
大阪地震の規模はM 6.1最大震度6弱。死者4名。塀により亡くなった方が2名。ブロック塀により1名、小学校の現場は繰り返し報道され日本全国悲しみに包まれました。
[人を守れないブロック塀]
大阪地震のニュースを一緒に娘とみていると娘がいつもにない真剣な顔をして話しかけてきました。「パパ。地震の時ってコンクリートは危ないってホント?離れないといけないんだね。全部そうなの?」娘は9歳。寿永小学校でなくなった少女と同じ年です。幼いながらに感じるところがあったのでしょう。言葉に端と目の奥には「コンクリート屋なのになんで危ないのを放っているの?」そう言っているような気がしました。
コンクリート業界に入って17年。これほど情けない思いをしたことはありません。本来であればコンクリートは災害の時に人の命を守らねばなりません。
ハリウッド映画をみていたとき大きな災害のシーンがありました。「こんな時はコンクリートの近くに行くんだ!みんなで移動しろ!」と。本来の姿のように思えました。
結局、娘には「地震の時はとにかくコンクリートの塀からは離れなさい。」そう言うしかありませんでした。
ちょうどその頃私は弟と共に独立し「(株)コンクリートライセンス機構」という会社を立ち上げたばかりでした。商品群の一部として「塀のねっこ」というブロック塀置き換えの商品開発を行っており、それもあり様々な情報を数ヶ月かけ一気に調べましたので皆様にお伝えしたいと思います。
[ブロック塀の被害予想]
各自治体におけるブロック塀の被害予想の多くは東京都の平成9年のレポートを参考に想定をしているようです。冒頭の大分県の調査も同じと思われます。
その中でジャンル別に分けた被害予想がありますが「ブロック塀」は大きな被害が予想されるため独立した扱いになっている事も衝撃的です。
内閣府の中央防災会議の資料では「建物の倒壊」「急傾斜地崩壊」「地震火災」「ブロック塀等」と4つの項目に別れており、問題の大きさを認識させられます。
ブロック塀等による被害予想 | 最大死者数 | 最大負傷者数 | ||||
内閣府 | 中央防災会議H25 | 首都直下地震 | 500 | |||
東京都 | 東京都防災会議H18 | 首都直下地震 | 614 | 7,415 | ||
東京都 | 東京都防災会議H24 | 首都直下地震 | 103 | 3,543 |
このように多くの人命を地震の時奪うことが予想されているブロック塀が現在のままで生き残ることは非常に難しいでしょう。
- ブロック塀の良さと問題
ここまでブロック塀が問題になっておきながら、ブロック塀が維持され毎年作られているのか、それはやはり明確な良さがあるからでしょう。建築学会によると以下の点が上げられています。
「宅地の狭小過密化に伴い敷地境界の確保と隣家・外部からの視線遮断」「防火・遮風・遮音・防犯」「強度・耐久性がある」「建設費が比較的安価」。
私は「施工が容易」「材料の入手が容易」「人力施工が可能」を追加したいと思います。
[論文からみる倒壊しないブロック塀の最低条件]
- 基準通りのRC基礎を有すること
- 十分な基礎根入れがあること
- 基礎底部からブロック塀の頂点まで鉄筋が一発で到達していること
- 劣化していないこと
上記を見るとコンクリートメーカーの関与できない現場での施工管理と維持が問題であり、簡単に解決できません。長年ブロック塀研究をされた方に話を伺う機会がありました。「結局、宮城県沖地震から40年経ったがブロック塀は進歩していない。」との事でした。ブロックは優れた材料に違いがありませんが現場での組立が必須の半製品です。きちんとしたブロック塀にするためには施工に関わる人全てを教育するしかないのですが、素人でも積むことができるブロックの特性から見てそれは大変難しいでしょう。ホームセンターでも気軽に買うことができ、誰にでも扱えるのがブロックのよさでもあります。
ブロック塀の抱える問題のもう一つが寿命です。
構造物の寿命があるのは当たり前なのですがブロック塀の寿命はイメージと比較すると極端に短いのです。ブロック塀の耐用年数についての記載が福岡県の「ブロック塀を詳しく知ろう!」に載っていました。10cm(厚)12年、12cm15年、15cm30年となっています。法定耐用年数は15年、木造住宅の法定耐用年数が27年ですから木造住宅の約半分の寿命となり、適切なメンテナンスがないと危険な構造物になります。(大分大学による大分市内の調査ではの10cm厚が最も多い)
劣化したブロック塀はたとえ施工がしっかりしていても、その存在は危険なモノに変わってしまいます。
- [行政の動き-異素材への移行]
危険なブロック塀を撤去して「生け垣」「金属フェンス」「板塀」に変えよう、と言い始めています。これはコンクリート業界が今まで求めてきた異素材からの転換の逆バージョンです。コンクリート製品業界にとってはイメージも売上にもマイナスです。
9月4日付け福島民友新聞に「県産木材でフェンス設置へ ブロック塀対策、学校など県有施設」という記事が飛び込んできました。もはやコンクリートブロックから異素材へ移行しようとしているのが今の流れなのです。
しかし、金属のフェンスは車がちょっと当たっただけで曲がってしまいます。生け垣は手入れが大変です。板塀は腐ってしまいます。
塀にはしっかりとしたコンクリートがぴったりですね。家を建て替えても塀がそのままというのは珍しくありません。と言うことは、家よりも長持ちするようなモノですね。コンクリートの持つ「頑丈」「長持ち」と言う特性、「安心」「安全」なコンクリートの塀が求められているのではないかと強く思っております。
(株)コンクリートライセンス機構 池永征司
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